えごのり (エゴノリ/えご海苔素干し) ＜乾燥＞

えごのりは、紅藻類イギス科に属する海藻の一種で、日本各地の沿岸部、特に日本海側、東北地方、九州北部などに広く分布しています。地域によっては「いご」「いご草」「おきてん」など、さまざまな呼び名で親しまれています。ここで紹介しているデータは、「おきゅうと」の原料として流通している乾燥えごのりを対象としたものです。

えごのりは、細長くやわらかな藻体を持ち、岩礁地帯において他の海藻に絡みつくようにして生育します。主な漁期は冬から春にかけてで、収穫後は丁寧に水洗いされ、天日で乾燥させた後に乾物として市場に出回ります。この乾燥品は、水に戻してから加熱し、煮溶かすことでゼリー状の食品に加工されるのが一般的です。
加工後は独特のぷるんとした食感を持つ食品となり、さまざまな地域で郷土料理として利用されています。

特に福岡県を中心とした九州北部では、えごのりを煮溶かして冷やし固めた「おきゅうと（おきうと）」が伝統的な郷土料理として知られています。「おきゅうと」は寒天やところてんに似た食感を持ち、味付けとしては醤油、酢醤油、三杯酢などが好まれます。地域によってはわさび醤油やネギ、ごまなどを加えて風味を楽しむこともあります。また、新潟県や佐渡地方では、同様の方法で作られる食品が「えご」「えご練り」「えごこんにゃく」といった名称で呼ばれており、夏の涼味料理として古くから愛されています。

乾燥えごのりは保存性に優れており、冷蔵庫のなかった時代には冬場の保存食や備蓄食材としても活用されていました。現在では加工された状態でパック詰めされ、家庭用商品や観光土産としても広く流通しています。福岡では「おきゅうと」として、佐渡や新潟では「えご」として、それぞれの地域のスーパーや直売所で手軽に購入することができます。
また、地域の祭りやイベントなどで手作り品が販売されることもあり、地元の食文化を体感できる一品として注目されています。

なお、えごのりに似た海藻は日本以外の地域にも存在します。韓国や中国沿岸部でも同様の食材が使われており、韓国ではスープやビビンバの具材として、さまざまな料理に活用されています。ただし、これらの地域で使われている海藻は、えごのりとは異なる種類の紅藻であることも多く、見た目や用途は似ていても、分類上は異なる植物である場合があります。

「おきゅうと」は江戸時代にはすでに博多の庶民の間で親しまれており、朝食や惣菜の一品として食卓に登場していました。現代においても福岡では定番の朝食メニューや家庭料理として根強い人気があり、スーパーの惣菜コーナーでもよく見かける存在です。
こうした伝統食は、地域の歴史や文化を感じられる貴重な食材であり、観光客にもその素朴な味わいが評価されています。